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可愛がフィレンツェから戻り数週間。
季節は夏も本番を迎えていた。
『浅井企画』の社長に呼ばれオフィスに訪れた可愛は、クーラーの利いた応接室のソファーに腰を掛けていた。
社長は言い難そうに、正規マネージャーである長岡静香の体調が予定よりも早くに回復し、できるだけ早急に現場に復帰したいと申し出て来ていることを可愛に告げた。
「……そんな訳で、半年間という契約だったけれど、長岡がなるべく早くに復帰したいと言っていてね。
代理の君は今月いっぱいで終了という形を取りたいんだ。
本当に申し訳ない。
こちらの勝手な都合だから、契約通りあと二か月分の給料はちゃんと支払わせてもらうから……」
そう言ってすまなそうに頭をかく浅井社長に、可愛は慌てて首を振った。
「いえいえ、そんな。
長岡さんが早く復帰できるのはリオン君にとっても喜ばしいことですし、お気になさらないでください。
お給料は働いた期間分だけで結構ですので」
「いやいや、君は本当によくやってくれて感謝しているんだ。ボーナスだと思って受け取ってほしい」
社長の言葉に、可愛は恐縮しながら頭を下げた。
「すみません、残り数日間、精一杯がんばります」
「よろしく頼むよ」
社長は嬉しそうに目を細めた。
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