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奥さんが自分の腕から麻袋を受け取ろうとしたが、彼女の細腕でこれを持つのはどう見ても厳しそうなので断れば、丁寧なお礼の言葉と、おいしいご飯作りますねとの言葉をいただいた。左足に娘を乗せたまま家に向かっていくマリクのあとについてお邪魔させてもらう。
玄関を入ってすぐに目に入ったのはピアノだった。詳しい種類までは知らないがグランドピアノというやつだろうか。壁に寄せるタイプの物ではないピアノだ。
「これ、奥さんが弾くの?…ですか。」
「奥さんじゃなくてルイーザって呼んでください。」
自分の後ろから入ってきたルイーザさんがにこにこしながら続ける。
「今はしてないんですけど、少し前までピアノの先生をしていたから使っていたんです。私が子供の頃から実家にあったものなんで大分古い物なんですけどね。あ、右奥の廊下をまっすぐに進んでください。キッチンに繋がってます。」
ルイーザさんが指し示した廊下を進む。
「突き当りを左です。」
白いレースのカーテンをくぐると広いリビングダイニングへと到着した。
「遅かったな。道に迷うほどでもないだろ。」
娘を肩車しながら麻袋の中身を片付けるマリクがこちらを向いた。
「ジャガイモは窓際の野菜ストッカーの一番下、リンゴとオレンジは同じやつの一番上な。」
「ん。」
買い物あたりからマリクに良いようにつかわれている気がしないでもないが、まあ、これぐらいはしてやろう。
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