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トンネルを抜けたら、そこは、不思議の国でした。
とはどこかで聞いた覚えのあるセリフだが、自分は目が覚めたらここにいた。
見たことのない部屋のベッドの上。起き上がって辺りを見回す。
部屋のなかは至ってシンプルで、自分の寝ている簡素なベッドの他は丸いテーブルと背もたれのない丸椅子。これだけしかない。
足元に一足、ブーツが置いてある。可愛いらしさやオシャレさといったものを全て削ぎ落とし、機能性に特化した作りのものだ。これ以外に履物はない。床は余り綺麗とは言い難いので仕方なくそのブーツを拝借した。
ギッギッと床の軋む音が多少耳障りではあるがベッドの脇にあったドアから出る。窓はなく、薄暗く、狭い廊下。右にひとつ、左にひとつドアがある。少し先、正面にもひとつ、ドアが見えた。
右にあるドアを細く開けた。トイレとユニットバス、ひび割れた鏡の付いた洗面台。脱ぎ捨てられた服が洗面台横の籠に放り込まれている。靴下が片方だけ籠から転げ落ちているのを見つけてしまった。静かにドアを閉めた。
今度は左にあるドアを開けた。余り広くないリビングとその奥にキッチンが見える。リビングにはダンベルと数冊の雑誌が無造作に置かれている。静かにドアを閉めた。
どの部屋にも寒々しさが溢れていて、自分以外に人がいないことが窺える。
少し先に見えたドアまで歩き、開けた。ここが玄関らしく、外に繋がっていた。どうやらこの部屋はマンションの一室だったようだ。
外は暗い。夜8時…ぐらいだろうか。
「クラウド、何してんだ?」
びくりと体が跳ねた。いきなり横から声をかけてきたのは、短い金髪に顎髭、緑の目をした、がたいの良いおっちゃん…お兄さん…どちらとも言いづらい、際どい年齢の男だった。
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