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「お前も行くんだよ。」
がしりと頭を掴まれる。と同時に鈍いが激しい痛みが襲う。
「離、せ。」
必死で抵抗し、ようやくマリクの手が外れたところで抗議の声を上げた。ずきずきする頭を押さえ、悶えながら。
「何するんだ。」
「愛情表現。」
「物凄く痛かったんだけど。」
「そうか、仕方ない。さて、何を食うかな。」
悪びれもせずにやりと笑いながらそう宣うと今度こそドアの先に進んで行った。
マリクに続き部屋を出る。クラウドの体は当たり前のように靴箱の陰から鍵を取り出した。意識は自分に刷り代わっても、体に染み付いた習慣は抜けないものらしい。
全く見知らぬ場所をほんのさっき知り合ったばかりの男のあとについて進む。何とも奇妙な感覚だ。マリクのことを疑っているわけではないが、信用もしていない。
「何、下ばっか向いてるんだよ。ちっとは回りに目を向けろ。」
そういって強引に下がり気味だった自分の頭を上に向けた。すぐ目の前にマリクの顔があった。
「別に自分…俺がどこを向いていようと関係ないだろ。」
ふぅーと大きく息を吐くと、マリクは仕方がないという素振りをしてして見せた。
「あのな、お前の家は国の用意したしけた宿舎だけど、俺には美人な嫁さんと可愛らしい娘の待つ家があるんだよ。毎日毎日お前を送り迎えなんてできないんだよ。自力で道を覚える努力をしろ。」
この際自分が道を覚えなければならないという話は置いておいて、一番気になった部分を聞いてみた。
「結婚、してるのか?」
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