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小雨が降る中を傘も差さずに黙々と歩く。人の傘がぶつかろうが気にすることなくただひたすらまっすぐ進む。
錦糸利町駅前のカフェで足をとめ溜め息をついた。
それからしばらくしてカフェの中へ入り手前の空いている窓際に腰掛けた。
シトシトと降る雨。何故わざわざこの鬱陶しい雨が見える場所に座ったのか。
実はそんなことは今の優にはあまり重要なことではなかった。
優の頭の中に窓の風景は写りだしておらず、それどころか、すべての体の機能が停止している状態だった。
「……さま、お客様。何になさいますか?」
全く注文をする素振りの無い優を見かねて店員が声をかけてきた。
「ああ、ごめんなさい。ぼーっとしちゃってて。実は待ち合わせしていてつい。えーっと、何にしようかなあ。じゃあ。とりあえず、ブレンドコーヒーで。」
優は若そうな女性店員が顔を赤くするくらいの満面の笑みで注文をした。
女性店員はあまりの柔らかい笑顔に一瞬後ずさり声にならなかった。
「大丈夫ですか?」
「あ、だ、大丈夫です。申し訳ありませんでした。ブレンドコーヒーですね。すぐにお持ちします。」
そういって女性店員は足早にカウンターへ戻っていった。
優はとても端正な顔立ちをしている。そして笑うとたれ目になるため誰もが彼のファンになってしまう。
それを彼は充分にわかっている。彼は今までもそうして生きてきた。
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