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「とにかく、僕はもうほとんどの単位を取ってしまっているので、フラフラしている事ができるんです」
「親に仕送りしてもらってるんでしょ? 真面目にやらないと怒られるわよ」
年長者らしくひかりが言うと彼は儚げな笑みを浮かべた。
「死んでるんです。両親とも。でも、生命保険がかなりあったんで、こうして大学に通っているんですよ。こう見えてもお金持ちなんです」
最後は冗談めかして聖児は言った。両親の死はとっくに吹っ切れているのだろう。ひかりは特別にお悔やみは言わない事にした。
「そっかぁ~。私は毎月金欠だぁ~」
「保健所って給料安いんですか?」
「う~ん。世間並みに貰ってると思うんだけどね。私、お寿司が好きなのよ。毎日食べる訳じゃないんだけどね。気がつくと無くなってるって感じ」
「日本人で良かったですね。他の国に生まれてたら働き甲斐が無いですよ」
のほほんとした口調で聖児が言う。底抜けにポジティブなのか、女の扱いが上手いのか。恐らく前者であろうとひかりは思った。
「そうねぇ~。日本から出てないから分からないけどお寿司が無い所には行きたくないわね。あとお蕎麦と漬物……たこわさといかの塩辛も外せないし、めんたいこも必須よね」
「ますます日本から出られませんね。僕は食べ物に頓着が無いからうらやましいです」
「一人って事はコンビニでお弁当?」
スーパーで見切りの寿司を買う事の多いひかりが尋ねると彼は苦笑した。
「もったいないから自炊なんです。知ってますか? お金持ちの方がケチなんですよ」
「自炊って、何作るの?」
「キッチンが小さいので簡単なものばかりですよ。昨日はレバニラ炒めでした」
「健康考えてるのねぇ~」
「長生きしたいですから。それよりそろそろ犯人探しをしませんか?」
言われてひかりは彼との会話を楽しんでいた事に気がついた。連続殺猫事件の解決が会合の理由であったはずだ。
ひかりはバッグからペットボトルの緑茶を取り出して喉を湿らせて気持ちを切り替えた。
「そうね。この連続猫殺し事件なんだけど、大体一週間に一回くらいのペースで起こっているの」
ひかりはそう言って地図を取り出した。仕事の合間を見つけて事件現場と日にちを地図に書き込んで来たのだ。
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