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「それは困ります。日常生活に支障をきたすので。でも、変わっていない人など世界にいないので、僕は変わっている事で凡人になれるんです」
まるで言葉遊びだと思いながら聖児は言った。自分はこの、目の前の女性と会話を続けたいが為に言葉を繰り出している。
「そうねぇ~。わたしも変わってるって良く言われるわ。猫の死体の処理とか普通の女の子は率先してやらないって」
どこか誇らしげにひかりは言った。
「確かにそうですね」
言ってから、豆鉄砲を食らった鳩のような顔をした彼女の顔を見て聖児は失言だったと反省した。しかし、ひかりはすぐに苦笑すると、
「ハッキリものを言うのねぇ~。でも、わたしがあの子たちを還してあげるのは、誰かが悼んで、誰かが彼らがこの世に存在していたことを知っていてあげなくちゃいけないと思うから」
「彼らがこの世に存在していたことを?」
「この世の全てに意味があるとは思えないし、意味があるのだとも思えない。でも、自分もその一環だと思った時、意味が無いとされたものに証を与えたくなったの。自分がいつか消えても、自分が証を与えたものたちと自分とはきっとつながっていて、それが自分の証になると思えるから」
「哲学的ですね」
「ああ、わたしまた電波な事言っちゃってる?」
眉毛をハの字にして彼女は言った。
「いいえ、面白いです。じゃあ、僕が今日、あなたに会ったことも、僕の証になりますか?」
「あなた、本当に変わってるのね」
呆れた口調でひかりは言った。
「僕は最初から変わってるって言ってますよ」
聖児はそう言ってわざとらしく眉をしかめた。
すると彼女は快活な笑い声を上げた。
「そうだった、そうだった。あなた変わってるんだった。わたしたち、変わった者同士だね」
「変わった人間でも二人集まれば凡人ですよ」
聖児が笑みを浮かべると、ひかりの瞳の底が輝いた。
「それがあなたの持論だったわね。あなたの目から見たら世界はどんな色に見えるの?」
「どうして色なんですか?」
咄嗟に思い浮かんだのが、この空と女性にあまりにも似つかわしくなかったので聖児は問い返した。
「七色に輝いて見えるとか。カレイドスコープをのぞいたみたいだとか、宝石箱をひっくり返したみたいだとか」
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