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「今度は文学的ですね。ひかりさんの目には世界は輝いて見えるんですね」
聖児の言葉に彼女は小さく唸った。
「瞬いているの」
「瞬いている?」
「夜空の星って言うときれい過ぎるかな? 人って色々背負って、良くも悪くも濁ってるのよね。だから、世界はぼんやり明るいかぼんやり暗いか、境も曖昧でしかなくて。でもそんな中で、キラッって瞬く瞬間がある。子供を無事出産した母親の笑顔とか、何の裏表も無くて、ただただ嬉しいって気持ちだけがそこにある。そういう光が瞬いている、それが素敵だって思えるから、世界はまだまだ捨てたもんじゃないってみんな思ってるんだと思う」
灰色だったんです。僕の世界も。聖児はその言葉を胸にしまったまま、ひかりが自分の前で輝いている事を実感した。
「ひかりさんは誰かが自分のコンパスになると考えた事はありますか?」
「コンパス? 定規とか分度器とかの?」
虚を突かれたような表情で彼女は言った。
「いいえ、羅針盤とか方位磁針のコンパスです」
聖児が言うとひかりは腕を組んで考え込むような表情をした。
「それは自分が自分で見つけなくちゃいけないものなんだと思うなぁ。誰かをコンパスにしたら、その瞬間から自分の人生はその人のものになってしまうでしょ? そうしたらその瞬間からその人は言い訳を作ってしまう事になると思うのね。正しい事と悪い事の線引きは重要よ。でも、人は自分の正しいと思う道を草や藪を掻き分けて進んで行くべきだと思うの」
正しい。聖児はひかりに眩しさを感じた。
もしひかりが、正しいと思う道を選んでと言っていたのなら、凡庸な言葉だと流してしまっていただろう。だが、草や藪を掻き分けてとなると話は違う。彼女の正しさは既存の概念ではなく、彼女の心中から生まれてくる純粋なものだろう。悩み、苦しみ、傷つきながら人生を切り開いているのだ。
一瞬でも彼女をコンパスにしようとした浅はかさを聖児は恥じた。
「ひかりさん、僕と一緒に犯人を探してくれませんか?」
「犯人って?」
彼女の何度目かの驚いた表情を見て聖児は言った。
「クロを殺した犯人を捜すんです」
「そんな事言っても私には仕事があるし、あなたにも学校があるんじゃない?」
逡巡するような表情を浮かべるひかりを見て、聖児はここで繋がりかけた糸が切れないようにと言葉を接いだ。
「夕方なり、夜なりでいいんです。不審な人が居ないかとか」
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