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連れ添う精鋭達は漢軍の大軍に完全に包囲され一人また一人と討たれていった
軍馬に跨がる騎兵
身の丈に不釣り合いな程の長い矛を持つ歩兵団
その誰もがただ一人となった彼を追い掛けた
彼は愛馬‘騅’の手綱を引き歩みを止めさせた
その先は大河長江が横たわる
この血生臭い戦場は、緩やかな流れの長江にはどう写るのであろうか
やがて男は振り向き視線を長江から迫り来る漢軍に変えた
血糊と砂埃で立派な衣は汚れている
その顔や腕にも夥しい血がどす黒く色を変えさながら鬼のような面構えとなっていた
やがて表情は強張り咆哮をあげる
「天よ!この俺の首が欲しいか!!!」
漢軍の何万という兵士はその叫びにたじろぎ一定の間を空けて立ち止まった
「劉邦よ!この天下、貴様にくれてやるわ!!!」
その刹那、男は天を睨みつけながら自らの首に剣を突き立てた
夥しい鮮血が裂かれた首から滝のように激しく流れ出る
それを見た漢軍の兵士は財宝に目の眩んだ賊へと成り下がる
男の首を取れば莫大な恩賞を手に出来るとなれば欲がでないはずは無い
まるで蟻が死骸に群がるようにたった一つの亡骸に何百という兵士が纏わり付いた
際限の無い欲はやがて共に戦った兵士の同士討ちへと発展
その中心では男、項羽の身体は細切りに切り刻まれ原形など留めていなかった
流れた項羽の血液も、名の無い兵士のそれが上から上へと重なりその一帯の地は暫く黒く淀んだままであった
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