P.T.Last

1/1
前へ
/6ページ
次へ

P.T.Last

そうだ…、俺は検討違いの捜査をしていた。 被害者は生徒だ、生地の厚い制服を着ている。 女子だから下着も着用しているだろう。 制服を、下着を、背中を、正確に、力強く心臓を刺さなければ、全てがその場で破綻する。 アイスピックのような、鋭い凶器を使えば可能かもしれない。 だが凶器は分かっていた筈だ!! 俺は自分の目でも確認した筈だ!! …何故、気が付かなかったのだ…。 女性の力では…、犯行は難しいのだ。 「もう1つ、大切な事を見落としてる。  真実…、何だか分かる?」 「…いや、まだ何かあるのか?」 「刃物を凶器として使えば、  迅速に犯行が可能かも知れない。  でも…、刃物は1つ問題点がある。  真実はあの現場を見てるんだから、  分かってると思ってたけど…?」 …そうだ、刃物で刺せば血が出る。 背中とはいえ、心臓を刺したのだ。 多少なりとも返り血を浴びる筈…。 「いや待て、なら犯人はどうやって…。」 「…もう分かったでしょ?  犯人がどうやって被害者を殺したか。」 …理解した、そして…、後悔した。 返り血を浴びない様に殺害するには、 ナナちゃん先生には…、不可能だ。 「…捜査はやり直さないとね?」 午後22時、自室…。 「…そう、先生は犯人じゃないんだね?」 俺は部屋に戻り、愛衣にそう報告した。 「有り難うな愛衣…、お前のお陰だ。  俺は少し…、焦っていたみたいだ。」 そう…、焦る必要は全く無かったのだ。 そもそも、俺は殺していないのだから。 元より…、陰口など気にしていない。 「…振り出しに戻っちゃったね?」 「…いや、そうでもない。」 確証はないが…、間違いはないだろう。 「真実…、犯人が分かったの!?」 「ああ、恐らくはな…。  週明けには解決するだろうが…、  その前にやらねばならない事がある。」 事が今に至って…、俺は思う…。 俺でさえ、犯人の目星が付いたのだ。 警察は、犯人が分かっているのでは? …俺が何もしなくても、明日になれば勝手に解決するのでは? 俺の苦労は…、徒労に終わるだろう。 このまま歩みを止めてしまっても、恐らく大局に影響はしないだろう…。 だが…、それでも…、俺は前に進む。 ここまで来て、今更投げ出したくない。 このまま終わってしまったら、俺は半端な自分を変えられないままだ。 俺は…、変わりたい。 せめて、大切な人を守れるくらいに…。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加