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風に消失す
血風が濃霧の塊を押しながら、丸に十文字の描かれた旗を揺らしている。
その様子は天下分け目の戦いへと島津の陣を駆り立てているようだと豊久は思った。
西暦一六〇〇年、関ヶ原の戦い。
島津豊久(しまづとよひさ)
は伯父の義弘に従い、石田三成率いる西軍として参戦していた。
眼前の白がいかに戦いの様子を覆い隠そうとも、兵たちのぶつかり合う音はそれを突き抜けてくる。
冷たい空気は、ほんの一瞬前までは温かかったであろう血の臭いでむせかえるようだった。
「・・・・・・なんじゃあ」
戦場の空気が変わった。
馬のいななきと人馬が大地を駆ける足音はそのままだが、剣戟の音が消えたのだ。
「こい(これ)は突撃ではなか。逃げじゃ」
敵か味方か。どちらかが一方的に追い、逃げている。
陣幕から一歩外へ出る。見張りの兵たちも気づいてはいるのだろうが、いかんせん霧によって確認ができないようであった。
「伝令、伝令にごわす!」
偵察に出ていた兵が血相を変えて戻ってきた。
「石田三成が敗走。続々と他のお大名も逃げておりもす」
天下分け目の戦いとは申せど、この時天下は再び一つのものとなった。
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