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海の生き物が優雅に泳ぐ空の下。彼女はくるくる回りながら僕に尋ねる。
「見れないと思ったでしょう。でも、どう? そこにあるわ。私たちだけよ、きっと」
諦めていた光景が蘇ったことに、正直僕は驚いた。
全く予想していなかった。
「うん……すごい」
「すごい? 違うわ」
僕の言葉に満足しなかったのか、彼女は首を振り、空を仰ぎ、精一杯その小さな体を広げて叫ぶのだ。
「なんて、素敵」
世界に自慢するように。
「ああ――幸せ!」
一点の曇りのない、正直なその言葉は空に届き魚たちを驚かしてしまう。
それでも彼女は構わず何度も叫び、自慢げに笑う。
こうなった彼女はもう、誰にも止められない。
――だけど。
そうだね。きっと君のおかげだね。
僕はちゃんと気がついたよ。
君が言った通り確かに世界は思った以上に単純で、間抜けなんだ。
半分だけね。
だって、頭のいいイルカや体の大きなクジラはいないもの。
この空は小さすぎるって気づいているから。
だけど僕は決して言わない。言ったって無駄だって知っているから。
上を見上げれば、そこはもう海の中。
泳ぎ回っていた魚たちは次第に姿を消していってしまう。
みんな騙されたことに気が付いたのか、それとも行くべき場所があるからなのかは僕にはわからない。
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