ルーニーグゥは微笑ったんだ

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   入れ替わりにまた魚たちが現れるが、いつしかまた、なんの変化もないただの青空だけが残されるのだろう。  でもきっと彼女は悲しまない。  彼女が欲しいのはたった一瞬の奇跡だけ。描いた夢物語のその一瞬だけ。  叶ってしまい、ただの現実になってしまった出来事に興味はないのだ。  そうして彼女はまた現実を踏み台に奇跡を追い求め、夢物語に溺れてしまうのだろう。  それが彼女なのだから。  彼女なら、いつか本当にペン一つで空を飛んでしまうのかもしれない。  その時も僕は彼女と一緒にいるのだろうか。置いてきぼりになってしまわないだろうか。  彼女を振り向かせることが出来るだろうか。  その鍵はきっとここにある。  僕の手に握られた鉛筆。広げられたノート。   これで僕は、彼女以上の夢物語を紡いでみせる。  それが僕の夢。  でも彼女は気づいてくれるかどうか。  だって彼女もまた、この単純で間抜けな世界の住民なのだから。  海を見上げれば、どこか遠くで水の弾ける音がする。  ガラスが、叩かれている。  魚たちが現れ、消えていく空。  その片隅には、彼女の好きな赤色のクレヨンの跡。  小さくサインが刻まれていることに、  彼女はきっと気づいていない。 fin.
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