ルーニーグゥは微笑ったんだ

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「人はペンを一つ握れば空だって飛べる」  春が終わり夏へと移り変わるこの季節。  ちょうどこの時期の海の生き物たちは青空を求めに海からやって来る。  一年に一度、たった一回きりの風物詩。  今日がその日かもしれないと知った彼女は、僕を連れてその日からずっとこのアトリエにこもっていた。  白くひんやりとした石の床に散らばった画材道具に埋もれながら、ただ上を見上げてひたすらに手を動かしていた彼女の突然の言葉に、僕は思わず鉛筆を握っていた手を止めてしまう。 「突然なに。どうかした?」  何を言い出したのかと思ったら。  見れば、彼女はこちらに背を向けたまま、まだ上を見上げている。  せわしなく動いている手元を見れば、あるのは床に広げられた画用紙。筆がその上を滑り、絵の具がはじけて描くのは抜けるような青空。  手元を見ていないはずなのに、そのまま切り取ったような空がそこにはあった。 「ふふふ」  彼女は、メイは小さく笑うと最近伸びて邪魔になってきた髪を何度も耳にかけた。そうしている間も手は止めない。  彼女の傍らに置かれた小さなラジオから流れてくる音楽のリズムに合わせて、ゆっくり、たまに早く、踊るように筆が紙を優しく撫でていく。 「なんて不思議なことはないわ。当たり前のことだもの。人はね、何でもいい、かくものがあれば何だってできるの」
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