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「どうしてペンなの。飛行機があるじゃん」
「そんなもの必要ないわ」
「プロペラも?」
「いらないね」
「ツバサは……」
人間にあるわけないか。
「それは、素敵」
言い掛けた僕の言葉に彼女は声で笑う。
こちらを見もせずに。
「人間に突然ツバサが生えたら素敵ね。まあ、鳥にもあるからそこまで珍しくは無いけど。でも、それだってペンや筆が叶えてくれるわ」
彼女はなかなか振り返らない。
「どうして……」
「ん?」
「メイは空を飛びたいんだろう。欲しいのは空を飛びたいっていう事実だろう? 現実だろう。どうしてそんなに夢ばかり見るの」
さすがに、僕のこの言葉には困ったのか、彼女の手がピタリと止まる。筆は空の続きを描くのを止めてしまった。
けれど。
「わかってないなぁ」
なんてことはないというように呟き、彼女はようやく僕のいる方を見た。
「現実じゃないよ、夢でもない。私が欲しいのは『奇跡』だよ」
ようやく振り返った彼女の顔に浮かんだ無邪気な笑顔。
僕の言葉に屈した様子など見あたらない。
「ねえ。なにもそんなに難しく考えなくてもいいのよ。世界は思った以上に単純なんだから。魚が、海と間違えて空を泳いでしまうくらいに」
一年にたった一回きりの風物詩。
それは、海の生き物たちが空を泳いで渡る光景。
それは、少し昔には見られなかった景色。
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