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短く微笑むと、彼女はそれを床に置いて再び筆を握り、上を見上げて空を描きだした。
彼女が描くのは青空。
僕は、足元にあった画材をうまくよけて彼女の横に寝転がった。一緒に持ってきたノートと鉛筆を抱えて。
上を見る。
「…………」
見上げた先にあるのは空。
このアトリエは温室のような造りになっていて、天井がガラス張りになっているから空がよく見える。
けれど、見えた空は灰色に染まっていた。
青空なんて何処にもない。
「ねぇ、曇っているよ」
「そうだね。ルーニーグゥは落ち込んでいるね」
また何か変なこと言い出した。
「……じゃあ、何で青空なんか描いているの」
突っ込むのも疲れるだけなので、僕は普通に話を続ける。
「ふふ。これでいいの、いいのよ。ルーニーグゥはこうでなくっちゃ。それにちゃんと上を見ておかないと、一瞬の奇跡を見逃しちゃうかもしれないでしょう?」
そう言いながら彼女はありもしない青空を描き続ける。
一瞬の奇跡。
それはきっと、あの風物詩ことだ。
彼女はそれをずっと楽しみにしていた。
彼女だけではない、みんなが。
だけど、その奇跡を捕らえるのはとても難しい。
海の生き物たちは青空を求めている。
だからその光景をみる為には必ず晴れてなくてはならない。
曇り空でも駄目だ。
今の季節は天気が崩れやすいから、その機会は本当に少ない。
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