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「静かに」
それだけ言うと、彼女もまた空を見上げた。
まだだ。
まだきっと何かある。
言われた通り、僕は静かに空を見上げていると、その時はやってきた。
突然現れた青空は、何の変化もなくその姿を見せているだけのように見えたが、何となくその姿に違和感を覚える。
瞬間。
空の一カ所が歪んだ。
グニャンと歪んだかと思えば、まるでそこを通り抜けたように何かが空からやってくる。
……空を突き抜けた?
また一カ所、違う場所でまた一カ所。
空が歪み、その度に何かが空から現れる。
魚。
そう、魚が空から現れたのだ。
体の色が抜けているような、少し半透明な魚が空からやってきた。
一匹、また一匹とその数は増えていき、魚だけではなくいろんな海の生き物たちでいつしか空はいっぱいになってしまった。
それは、この時期だけの風物詩。
自由に空を泳ぎ回っている海の生き物たちに、僕が目を奪われていると。
「……く……くす。ふふっ」
隣にいた彼女の肩が小刻みに揺れている。
「メイ?」
「あはっ。ははは」
突然、彼女はお腹を抱えて笑い出した。
・・・・・・・・・・・・
「あははっ。ざまぁみやがれってんだー!」
両手を上げ、彼女は叫ぶ。
明るい笑い声が空を包む。
彼女に何が起きたのか、わからない。
けれど、彼女はとても嬉しそうだった。
「ねえ。どう? 待ち望んだ光景よ。見たかったでしょう?」
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