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いですからね。貴女の人生に幕を引きにきたわけじゃありません」
ぼくの天使さんとか言い出した、この人―――っ!!
ダメだ!!
「もうダメだ!やっぱり変な人だったんだ……!顔はいいし、背だって高いし、黙っていればそのへんの女子がキャーキャー騒ぐくらいの好青年なのに、精神的にソコまで到達してしまったコスプレイヤーさんだったなんて……なんて残念な人なんだ!!」
「聞こえてますよー。コスプレじゃないんですってば。しかしまあ、信じられないのも無理のない話ですけどね。なにしろ、事が急でしたからねー」
じっとりした私の視線を、春風よりも爽やかな笑顔で受け流し、ミシエル。
「朝起きて、布団の上に乗っかっていたのは正体不明の未確認生物。なんだコレ……しらたま?わらびもち……?おっかなびっくり、指先でツンツンしようと思った、そのときっ!ドアの外で響いた、可哀想なぼくの悲鳴……!」
「……」
「蓬莱海月さん。ここのアパートの大屋さんに、「この変質者!」と追いかけ回され、あげく、ゴキブリのよーにホウキで叩かれまくっていたぼくを助けてくださって、本当にありがとうございました。天使憑きのマモノビトであるぼくですが、流石にあのときは、貴女の方が天使に見えましたよ。はっはっはっ!」
「……助けなきゃよかった」
つくづく、自分はお人好しだと思う。
おまけに、運が悪い。
ミシエルの笑顔の向こうに、真っ青な水平線がキラキラと輝いていて、泣きたくなった。
今日は大学も休みだから、この間見つけた小島の穴場にダイビングにでも行こうと思っていたのに……。
「マモノビト? なにそれ! なにが悲しくて、休日の朝っぱらから妙な役職押しつけられたり、謎の生物と壮絶なバトルなんか繰り広げなきゃならないの……っ!? そういう数奇な運命は、24才のオバサンには必要ありません!! どっかの夢見る中学生にでもくれてやって……!!」
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