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「井上…、どなたからわたくしの話を聞いたのです?」
お互い向き合って腰を下ろすと白雪が先に口を開いた。
その問いにオドオドしながら春子は眼鏡の位置を両手で直しながらチラリと白雪を見た。
「松井さんです…。とても心配をしていらっしゃいました。」
「松井が…。そうですか、では兄と琉華が来たのも松井が関係しているのですね?」
白雪は遠い目をしながらあの橋の鉄筋落下時に来た茶髪の男を思い返していた。
更にオドオドしながら春子は続けた。
「あまり詳しくお話を伺った訳ではなくて…その、松井さんは白雪さまが誘拐されたとおっしゃって、幸定さまと昴さんがお探しになられたそうで…、それで白雪さまがお帰りになられてからずっとお元気が無いので私なら何故お伏せになられていらっしゃるのかお話いただけるかと……」
春子が話し終えても白雪はピクリとも動かずただ遠い目で春子の向こう側を見つめている。
妙な緊張感の中再び春子が話を切り出した。
「…そ、そう言えば、先日小説“君の小鳥になりたい”の続編が出版されたそうですよ…!白雪さまはあの物語がお好きでいらっしゃいますよね…」
チロッと春子に目線を移すと白雪は陰のある笑みを浮かべ、ふっ、と笑う。
春子の背筋に冷たい汗が伝った。
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