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「本日はおめでとうございます」
会場に入ってすぐ、にこやかな担当者が出迎えた。
ここ数ヶ月、打ち合わせを重ねてきた相手だけに気心も知れている。
雑談もそこそこに、持参した小物やセッティングの最終確認をして、紙袋や箱が空になった。
最後に鞄から取り出したのは、両親への手紙。
「はい、確かにお預かりします」
丁寧に受け取られて、少しだけ軽くなった手が解かれる。
インターネットから拝借した言葉のあとに、あかねは子供のころからの思い出話を綴った。
門限が厳しかった父のこと。
天然な行動が多かった母のこと。
改めて思い返してみると、平凡な日常に思い出があふれていた。
「新婦様から準備に入りましょうね、こちらへどうぞ」
控室に案内されながら、あかねは胸にツンとした痛みを思い出していた。
『お前の結婚式にはお姉ちゃんと同じ額を用意してるからね』
「それではまず下着になられて、このガウンを羽織ったら声をかけてください」
白いカーテンを閉められて、小さな空間に取り残された。
まるであの日のように白いカーテン。
鏡に映る自分に苦笑しながら、服に手をかけた。
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