プロローグ~敗戦の記憶~

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――――過去 ザアアァァァァァァ―― 雨が降っている。 その雨が作り出す水溜まりが、赤く染まる。 「はぁ……はぁ……はぁ……」 俺は膝をつき、傷だらけの唇から荒い息を吐いた。 そして歯を食いしばり、忌々しげに視線を上へ上げる。 目の前に立つ人物は、嘲笑を顔に貼り付け、不動の仁王立ち。 動け、と脳へ命令を送るが、体が一向に言うことを訊いてくれない。 対人戦闘で悪魔の変化魔法を初めて使い、すでに魔力はすっからかんだ。 身を打つ雨が傷口から入り込み、体の節々が悲鳴を上げている。 (そうか、俺は…………) 奥歯をぎりっと鳴らし、ポツリと呟いた。 「俺の……負けだ」 目の前の男は学ランを翻し、この場から立ち去る一歩を踏み出した。 ザアアァァァァァァ―― 止むことのない激しい雨が、唯一“それ”を打ち消してくれた。 黄色い髪の男の、嫌な笑い声を。 ――――
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