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少年兵は最悪、敵機に体当たりして道連れにする覚悟でいた。ここで敵機を排除出来れば、その分だけ味方の負担が減って、作戦の成功率が上がる。彼は自分の命も作戦の遂行も断念し、生き残っているかも定かでない味方に全てを託した。
高鳴る心臓を押さえ死を受け入れようと、深呼吸しフーッと息を吐く。少年兵の戦闘機はグングン加速し、それに気付いた敵機も接触を避けようと速度を上げる。
汗を浮かべ、未だ鼓動の収まらない少年兵の脳裏を、走馬灯が過った。優しかった家族の顔、片思いの女の子の笑顔、一緒に涙を流してくれた指導員の顔。
あれ程泣いた筈なのに。無駄に終わるのが悔しい余り、この期に及んで少年兵は独り、再び涙を流す。
腕で顔を拭い正面を見つめ直すと、敵機は確かに前にいるのに、何故か後方から飛行音が聞こえた。
少年兵が可能な限り後ろを見ると、自分が乗っているのと同じ、友軍の戦闘機が迫って来ている。
もしかしたら、極限状態における幻視かも知れない。例えそうだとしても、少年兵の心を落ち着かせるには十分だった。これで安心して死ねる。後は味方に任せよう、と。
何を思ったのか、味方の戦闘機は加速し、自分の真横に接近してくる。どちらかが先に行かねばならないのに、と思ったのも束の間、少年兵は驚愕した。
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