cherry

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「……でも…………俺は嬉しい」 潤くんが私を引き寄せ、 私は思う。 この子には希望しかない。 「……けど……しばらく…… あっちゃんがほんまに元気になるまで、 こう言うの、やめとくな」 あおい。 そう刻んだ潤くんの指が、 私の鎖骨をそっとさすり、 腕に流れる。 「…………うん……」 潤くんの肩にもたれながら、 ふと、チカと言う子を思い出す。 チェリーの席をとるんは、 あの子、でも良かったんやないかって。 「……そうや、あっちゃんな、 自分はみんなに嫌われてる、 みたいな事言うてたやん? やから友達おれへんって。 あ……、リクさん覗いてな。 けど俺のあっちゃんは、 そんな事全然無いと思う。 ほんまにええ子やって、思う」 照れたように、 眼鏡をかける。 裸に、くせ毛に、眼鏡。 人と抱き合うと、 今まで見ていたその人の顔が変わる。 店で売られてるコップを買う。 知らんかったコップが、 自分の、になるように。 「……病気になってから」 「……ん?」 「……病気になってから、 なんか浄化されてんねん。私。 怒らんといてな。 前の私やったら、 きっと潤くんが初めてなんも、 どっかでバカにしてたかもしれへん。 誰でもみんな……最初はそうやのに」 デリケートな、問題。 誰もがそう言う、デリケートな、 部分。 けど潤くんは、 「…………それやったら良かった」 そう言った。 「……良かった……?」 「……うん。 つまり、あっちゃんが浄化されへんかったら、俺に見向きもしてへんって事やろ? やから、良かったってこと。 後は病気が治れば、 尚、幸せ」 って。 潤くんは、物事を、 きっとどこかで客観的に見れる。 それは冷めているんではなくて、 相手の声を、 より多く聞くことが 出来ると言うこと。 迫田 潤、とは、 そういう、人。
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