water melon

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高さを増すと、 観覧車説明が始まる。 日本語、 そして、英語。 リクは完全に見えなくなった。 汗ばむ潤くんの手と、 潤くんが履く、 チノパンのベージュ。 そんなものばかりを、 見ていた。 「……リクさん、 あれに乗ったかなぁ……」 怖々、潤くんが窓の外を見る。 足がすくむような高さ、に、 観覧車は進んでいる。 昼と夕暮れの間、に、 空はある。 リクのは、まだ、見つからない。 「……もう少し上に上がったら、 リクのが見えるかも」 私がそう言うと潤くんは頷き、 悪夢から覚めたように、 小さな下界から目をそらした。 「……リクさん、 さっき凄かったな……」 思い出したように潤くんが呟く。 防波堤での、リク。 観覧車に向かう途中、 人は殴った事がない、 と言ったリク。 でも高校の時ボクシング部、 やったから、 殴ったらあかんやろ。 って、それだけ、言った。 私の元カレについては、 なにも言わず、 観覧車、か、客船、 どっちがええ?って私たちに訊き、 思い出されるような水族館を、 勧めることはなかった。 「…………うん。 リク……らしかった」 私が答えると、潤くんが、 「……俺も……リクさんと同じ気持ちやった……」 って、言う。 「……ありがとう」 と言うと、つないだ手を離して、 潤くんの頭を撫でる。 潤くんは潤くん、 それでいいのだ。
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