water melon

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観覧車が終わり、 リクを待つ間、 乗る前撮った高い記念写真を、 潤くんが買う。 撮られはするものの、 あまり買う客はいないようで、 肉マン係員は嬉しそうな、 顔をした。 「……一緒に乗ったら良かったのに」 ……アイシテルヨ。 そんな事すら無かったかのように、 リクは淡々と観覧車から降りてきた。 「……でもあいつ、1人やったし。 あ、一匹か。うん。一匹やったし」 「……せっかく3人で乗れたのに……。 観覧車って、乗ろうって思わんとなかなか乗らへんやん」 むくれつつ、リクを見上げた。 さっきの言葉が、胸に、残る。 「……アオはそうかもしれんけど、 な、潤くん」 思わせぶりに、リクが潤くんを見る。 「……えっ?俺?」 地面に足をつける幸せ、 を感じているような潤くんが、 ぼんやりそう言う。 「……うん。 結局2人でデートしてへんし、 観覧車ぐらいはええんちゃうかなって」 ……そうだった。 実現せずにいた、 潤くんとの初デート。 行こうって言うたんは、 潤くんやなく、 リクやったけど。 「……あ……え……まあ……それは。 でも今となっては……ですよ」 しどろもどろ。 私も、リクも、 そしてこんな関係の 提案をした潤くんでさえ、 それをどうすればいいのか 持て余している。 私が死んだら終わり……? 私が生き続けたら……? 答えは出ない。 「……なぁアオ、 スイカ割り、やった事ある?」 それきり黙ってしまった潤くん。 それをどうする訳でもなく、 リクが私に訊く。 「……無い。 だってあれってたいがい海やん。 日焼け、したくないし」 言うとリクがクスッと笑った。 「そんな友達おれへんかったし、 やろ? スイカ割りは1人ででけへんもんな」 リクの顔に浮かぶ、 意地悪スマイル。 アイシテルヨ、 神様、あれは幻でしょうか? 「……うるさいなぁ。 したくないからせえへんかったの。それだけ」 ムクレテ、歩く。 腹が立つのに、力がみなぎる。 「……まあまあ、喧嘩はなしで。 じゃあ、あっちゃんやろうよ。 今年の夏」 「そやな。 やろ、アオ。今年の夏」 2人の間で未来は揺れる。 「…………うん」 頷くと、 夏の匂いが一瞬、した。
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