greap

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おっちゃんが死んだ時、 そばにリクや潤くんが いたことを、 神様にこんなに感謝したことは、 ない。 なぜって。 私はあんなおっちゃんが 死んで、 ホッとするどころか 打ちのめされたような ショックを、受けたから。 おっちゃんの親戚は、 そう言えば誰1人知らなかった。 葬式をあの家でやり、 その人たちの顔を見ても、 何も、感じない。 『……あぁ……伸雄の嫁さんの……』 同じ言葉を何度も受け流し、 話し、 喪服はどんどん重たくなっていく。 死んでから、人が集まる。 それまでここは、 寂しい家やった。 「……よ、あーちゃん……」 藤木先生も、来てくれた。 業者の人に指示を出しながら、 テキパキと動くリクと潤くんを 遠目に見、 「……よう働くな。 あーちゃんの旦那たちは」 なんて軽口をたたいてから、 私をおもむろに抱きしめる。 驚いて、 なぜか母親の匂いを思い出す。 消毒液の匂いしか、 せえへんのに……。 「……それ以上泣いたら、 目ぇ膨れんで」 先生の声がこもる。 体を離して、くれない。 「……おじさんの分まで、 しっかり生きや」 そう言うとようやく体を離した。 先生の目、うさぎみたい。 もらい泣きって、 先生は言った。 「……ねーちゃん……」 気づくとリクが、 先生の後ろに立っている。 「……あら……これはこれは、 浪人ボーイ」 先生が目のはしの涙をぬぐうと、 またいつもの口調になる。 「……葬式でも減らず口か……。 な、このまま帰るんやろ?」 リクが喪服のネクタイをいじる。 いつもと違うリク。 少し大人に見えた。 「……そやな。 オペが入ってて、火葬場まではついていかれへんわ。 ごめんな……あーちゃん」 先生の言葉に、私が首をふる。 それから少し、体調のことなど 話して、 先生は「……ほなまた、 来月の検査、待ってるし」 って、靴の爪先を外にむけた。
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