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指先が冷たくなると、 季節が変わるのを感じる。 その後の3ヶ月。 リクからは何の連絡もなく、 先生は 『こっちにも何の連絡もないよ。 ただ……生きてると思う。 心配しな』 ってそれ以上は口をつぐみ、 それを掘り下げる事もしなかった。 チカと潤くんとはよく会うようになり、 11月の終わり、 潤くんがりんごを沢山くれた。 「親戚の田舎が青森で、めっちゃ送ってきてん」 『……潤のおっちゃんの妹の嫁ぎ先やねん。青森。 うちも一箱、もらったし』 潤くんの実家が、 3箱ある段ボールのうち、 なぜか1つをうちに送ってくれた。 マンションでその箱を開けると、 甘酸っぱい匂いが立ち込める。 「……でもなんで……うちに?」 そう訊くと潤くんは肩をすくめた。 「……さあ。 でもいつも気にしてるから、 うちの親。あれきりやし、 俺はそんな気にされても逆に困るんやけど……、 あの子、病気どうなったん?とか、元気にしてやんの?とかうるさいねん」 病気をしてから、 私は沢山の想いや愛を知る。 気づくのが遅かった、 ではなく、チカ流に言えば、 それも、運命……なのかも。 「……ふふ。 そーゆーとこ、潤遺伝してるやん」 チカが言い、 箱の中からりんごを取り出すと、 ガブッとかじった。 「……アホっ、おまえ何してんねん!? これはあっちゃんのやぞっ」 「……へへ。ええやん別に。 1人やったら置いてても腐らすだけやで。 何個あると思ってるん?」 チカがかんだ事で、 余計に甘い匂いが立ち込める。 ……そう。 1人では、この沢山のりんごは いつか腐ってしまうだろう。 やから私は…… リクの帰りを待っている。 家出した猫を待つように、 あの体温を懐かしく思いだしながら、 息をする。 そして私の病気は今だ、 進行していない。 進行しすぎてるから、 もうそれ以上進む所がない。 ポジティブに、そう、思う。 そしてリクにもう一度会いたいと願う心が、 やっぱり私を、 生かしているのだ。
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