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「おばさんが帰ってきはるまでに、荷物運ばせてもらおうと思って」 リクに言われたおっちゃんは、 ホッとして頬が緩む。 「……そ、そーかそーか。 春子さん帰って来るまでにな。 わかるで。ドタバタするもんな。 春子さん、せわしないの嫌いやから。 ありがとうやで、兄ちゃん、 気ぃつこてもろて」 おっちゃんは、 こめつきバッタみたいに 頭を下げる。 そうしてたかと思うと、 そのまま台所に消えた。 「……幽霊みたい」 ボソッと言うと、リクがたしなめる。 「……そんなこと言いなや。 ちゃんと生きてはるやん」 ちょっと怒ったリクが 部屋に上がり、 もうまとめてある段ボールの隙間に、二人して立つ。 「……これだけ?楽勝」 リクがさっさと 何個も積み上げ、 「……ありがとう、言うときや」 「……何に?」 「……この部屋と、この家と、それからあのおっちゃんに」 「……リク、学校の先生みたい。 世話になったっけな。 おっちゃんに困らされた記憶しかありませんわ」 「ええから言うとき。 言いにくいんやったら、 心ん中で」 「リクって、詩人やな」 茶化すと悪化。 リクの怒り。 さっきまでのは、 おっちゃんを幽霊呼ばわりしたから。 今のは、今ので。 友達って、体の関係がない分、 やりにくい。 な訳で、無言で運び出された 段ボール。 軽トラの後ろに納めると、 「……お邪魔しましたっ……」 玄関に響くリクの声。 つけっぱなしのテレビの声。 反応しないおっちゃん。 只今、キッチンで食パン試食中。 これやったら怒られへん? 「…………行こ」 リクに言うと、 外に出た。
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