orange

12/17
前へ
/295ページ
次へ
と思ってたらリクから、 re start 。 「父が、嫌いな訳でして」 「……なるほど」 「で。 出ようとしたら、 ねーちゃんに先越された訳ですよ」 藤木先生、 確か1人暮らし。 リクの指好きかも。 鍵を握る角度も。 「……何かトラブルでも?」 「……特に。別に。 価値観のそーい」 「……のような事は、 どこにでもあるのでは?」 「……どこにでも。 あったら恐い。 例え話、聞く?」 「例え話、なら」 例え話は往々にして、 自分のこと。 「……じゃあ、はい。 あるところに 開業医の父親がいました。 彼は家族で出掛けると、 必ずこう言いました。 『おまえたちは、ああはなるな』 指差したその先にいたのは、 ホテルのトイレを掃除する、 腰の曲がったおじいさんでした。 このお話にはまだ続きがあります。 ……聞く?」 「……残り、あるなら」 「ある」 「……じゃ、お願いします」 「……うん。手短に。 彼はこの世の中で、 医者と言う仕事が一番偉いのだと、 娘や息子に言いました。 大頭領や大富豪だって、 病に倒れれば、 医者を頼るしかないからです。 娘は結局医者になりました。 でもあまり彼の事が好きではなかったので、 家を出たのです。 さて息子はどうしたか。 彼の妻は良い人です。 置いてくなんて、できません。 なので彼は父親とは違う仕事を目指し、なんとかそれで呼吸をして、いるのです」 「……終わり?」 「……うん。」 車のキーを リクが差し込むと、 それまで黙っていた彼の携帯が、 ここぞとばかりに 鳴り出しました。
/295ページ

最初のコメントを投稿しよう!

213人が本棚に入れています
本棚に追加