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「迫田 潤(サコタ ジュン)と、 言います。 大学2年です。 1週間前 あそこに引っ越してきました。 カーテン、そう、カーテンがね。 実家の母親が 通販で勝手に頼んでた、 これ。 色間違い? あ、番号間違いで。 めんどくさいから、 しばらくそれしといてって。 でも俺これはちょっと…… なので」 ……なるほど。 それは分かりました。 ……で? 「ここ、今日、 引っ越しが見えてですね、 カーテン無いなと。 女の子は、 見えたらまずいし。 あ、もし、 買ってるなら、 余計なお世話ですが」 怪しい、の「あ」は、 とりあえず取る。 「やしい」は、まだですよ。 妙なカッコでドアノブに手は、 かけたまま。 自分の部屋に向き直る。 ベッドカバー、落ちてますな。 「……つまり、くれる?」 「あ、はい」 「……ただで?」 「あ、もちろん」 「…うーんでも、 買ったら返しますね」 借りるのであって、 貰うんではない。 普通なら、 借りもしません。 塩やしょうゆなら、 もしかして、借りますが。 寂しいやつめ。 しょんぼりの隙間に 入っちゃうカーテン。 悪徳商法や無いことを 祈る。 「……え? 返さなくていいです。 俺、そのうち買います。 じゃあ、おやすみなさい」 迫田 潤。 隙間の中だけで話し、 隙間のままで戻る。 そうしてまた、 向かいの部屋に。 ふいに笑顔をもらい、 カーテンを持ったまま 手を振ってしまった。 良くも悪くもこれが、 迫田 潤、 との始まり。 ピンクのカーテンは、 その後もずっと、 返却なしで。
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