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その1時間。
は、
何もしていませんでした。
思い出したように
春巻きにラップをかけたのは、
1時間が終わる、少し前。
鏡の前に立ち、
髪をとかすと、
腫れたまぶた以外、
何の変化もない私がいます。
あれから、痩せもしていない。
肌は白く、けれど顔色も悪くない。
しかしあの医者が言うのだから、
この入れもんの中身は、
腐りかけているのでしょうね。
この春巻きを見て、
潤くんがどう思うのか。
そんな事は考えませんでした。
ただ、
何かを話すには手持ち無沙汰で、
リクも参加したこの春巻きが、
何かのお守りのような
気がしたからです。
チャイムを鳴らすと、
1度では出ませんでした。
2度目に鳴らすと、
ドアがようやく、開きました。
潤くんは何も言わず、
春巻きを持つ私を目線で中に
招き入れます。
『……お邪魔……します……』
呟くほど小さな声で、
まだ終わらない戦いに、
挑む覚悟を決めました。
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