cherry

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「…………あげる。お守り」 私の左手をとり、 革ひもを結ぶ。 それを見下ろし、 潤くんを見上げ、 ありがとうではなく、 ごめんと言った。 「……なんで……?」 「……イロイロと……やから」 「……うん……。 確かに、リクさんとコソコソやられてたんは……やけど、 でも、ええよ。 あっちゃんと俺は、 ここスタートで」 色の無かった潤くんの顔に、 少しだけ、色がつく。 私の最後の恋人、潤くん。 改めて、 どうかよろしく…… お願いします。 「……な、春巻き、もらってええ?」 「……あ……うん。 ごはん、まだやんね」 「……うん。でも今日忙しくて、 4時くらいに学食でメシ食ったから、 この春巻きだけでええかな」 「……ああ。……うん」 このブレスレットを、 作ってたからかな。 そのあとは、 チンした春巻きを食べながら、 潤くんと二人、ベランダで 星を見る。 今日はその獅子座、 ちゃんと見えた。 交代するとき、油が手について、 望遠鏡にも。 「……わ……どうしよ。 べたべたや。これ」 「……ああ、ええって。 星さえ、見れたら」 潤くんが言って、レンズを覗く。 「……な、あっちゃん……」 「……ん……?」 「…………必ず死ぬとは、 限らんみたいやで」 それこそ星を説明するように、 潤くんは淡々と、そう言った。 「……そおなん……?でも……」 「……手術も……やったらでけへんことないって。 余命は、あくまで何もせえへんかったら、の話で、 あっちゃんが頑張るなら、 有りかもって、リクさんが」 レンズにギュッと顔を押し付けるようにして、 潤くんはそう言った。 「……そうなん……」 「……うん。やから」 レンズから顔を離し、 潤くんは私を見た。 「……俺の為に生きてよ」 それは潤くんに言われてるのに、 この事を伝えたリクに 言われているような、 奇妙な錯覚に、 私は落ちた。
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