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「――――」
向けられた銃口に思考が停止する。それから出てくる物は実弾では無く、赤外線より波長の短い可視光だ。目に入れば網膜が焼ける可能性があるが、当然の事ながら光をカットするアイガードを着けているため何も問題は無い。問題は無い…………が、銃口を向けられる事による本能的恐怖が、長太郎の身体を縛りつけていた。
よく考えると、完全におかしかった。舞い上がっていたし、疲れもあっただろう。だけど何故、敵は二人と判断したのか。運良く一人倒した……なんて、都合が良いにも程がある。
後悔した所でもう遅い。
長太郎はせめて最後の悪足掻きをしようと身体を動かし――――赤色の軌跡が頬を掠めた。
視線の先にはこちらを狙っていた敵が悔しげに顔を歪ませながらも、取り出した白旗を地面に突き刺していた。
『…………目標沈黙(ターゲットダウン)』
インカムからは亜紀の控え目な声が聞こえて来た。
転々とする状況に理解が追い付かず、長太郎は取り敢えず浮かび上がって来た質問を亜紀にぶつける。
「…………どうやって撃ったんだ?」
ここは開けた場所ではなく完全な森。木漏れ日すらもまともに見られない鬱蒼とした中、どうやって亜紀は正確に敵を撃つ事が出来たのか。少なくとも人間技じゃない。何か仕掛けがあるはず。
そう考える長太郎だが、事実人間技じゃなかった。
「…………烏が教えて…………何でも無い。ただの紛れ当たり」
「そ、そうか」
同じ班でありながらも、亜紀の事は良く知らない。それは全員に当てはまる。俺たちは班員でしかなく、仲間では無い。
だが、ヒーローで在るのに仲間は必要不可欠な存在だ。
(…………まずは、互いを知る事からか)
訓練は無事終了した。
大きく息を吸って吐き振り返った先には、一三四に肩を借り呆れ顔でこちらを見る橘が居た。
長太郎は笑みを浮かべると、色々な決意と共に新たな一歩を踏み出した。
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