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どう足掻いても過去を変える事は出来ない。いじめられ不登校となった苦い記憶は、今も頭の片隅で忘れられる事なく燻っている。
だが、知ったのだ。ヒーローという存在を。傷付きながらも弱者を守り、皆の期待に応え、悪を駆逐する存在を。
知ってしまったのだから、それから目をそらす事が出来なかった。自分にはなれないと諦める事が出来なかった――――それはある種、呪いにも似たヒーロー願望。
故に彼――遠藤長太郎――は、己が目指すヒーローになるため、『東都防衛学園』の扉を叩いたのだった――――。
『七時の方向、敵影三つです』
右耳に装着したインカムから流れる少女の声が、B班全員――といっても約一名は既に離脱しているが――の鼓膜を叩く。
少女の名前は遠藤真帆。
基礎体力が標準以下である彼女が炎天下の状態、しかも凹凸の激しい山間で戦闘を行えるはずもなく、その類稀なる頭脳を用いてB班の指揮を執っていた。
その隣では島原亜紀がスナイパーライフル――PSG-1――のスコープを覗いており、真帆に味方と敵の位置を逐一報告している。
亜紀と敵の距離は約六百メートルあり、訓練生である亜紀が一発で目標を沈黙させるには少々遠いだろう。無論、弾倉が空になるほど引き金を引き続ければいつかは命中するだろうが、そうなる前に敵は四方に散るだろう。せっかく見つけた敵を逃がすのは惜しい。
余談だが、これは『東都防衛学園』が行う演習、つまり広大なフィールドと潤沢な装備を用いてのリアルサバイバルゲームに過ぎない。よって皆が持っている武器は教育用のレーザー銃であり、殺傷能力は皆無だ。そのため弾倉が空になる、という言葉はただの比喩的表現だ。
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