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「俺、もう逃げないよ」
真っ直ぐにあたしを見ながら琢磨は言う。
今度こそ……。
琢磨の言葉、信じてもいいかな。
「この土砂降りが全てを流してくれる」
あたしまで何臭い事言ってるのかしら。
少女マンガじゃあるまいし……。
「梨乃……」
子犬のような目で琢磨はあたしを見る。
その顔弱いのよね。
所謂、胸キュン。
「あたしにも琢磨が必要よ。
幸薄なあたしをいつも茶化して元気にしてくれてたんだよね」
あれ?
あたしどさくさに紛れて何言ってるの?
琢磨はあたしを振った男なのに。
「……ごめんな、不器用で」
申し訳なさそうに琢磨は頭をかいた。
知ってるもん、琢磨が不器用なのは。
感情表現が下手だからカッコイイのにモテないのも、ホントは自分がイケメンって気付いてるくせに格好つけきれてなかったり……。
あたしはちゃんと知ってるよ。
「不器用なくせにこんな公共の場で歯の浮くような話するんだもんね」
今気付いた。
皆知らん顔してるように見せ掛けてチラチラあたしらを見てるんだよね。
こんなとこでドラマみたいな事やってるからね~。
「あ……」
琢磨も気付いたみたい。
顔を真っ赤にして、俯く。
意外とチキンなとこあるのよね、琢磨は。
「思った事真っ直ぐにやる性格好きだよ」
ええい、ままよ。
この際だし言っちゃえ!
「あ、ありがとな」
琢磨も開き直り。
赤面しながらもちゃんと答える。
「また一からやり直そうよ」
我ながら臭いセリフね。
「あぁ、そうだな」
琢磨はあたしの頭をぐりぐりと撫でる。
は、恥ずかしい。
だけど何だか懐かしくて嬉しいな。
「あのさ、一言いっていい?」
話の腰を折るようにあたしは言う。
「何だよ?」
反射的に琢磨はあたしから手を離した。
「目立ちすぎ」
注目度がさっきより倍増。
さすがに店員さんも唖然としている。
まぁ、そりゃそうよね。
注意できないんだろうね、実際。
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