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パレードが始まる直前から園内の雰囲気は変わる、場所の取り合いやゲストによる交通規制も原因の1つだ。
しかし、一番の原因はパレードを楽しみにしている人々の心である。
楽しみたい気持ちが一瞬でも園内の人々の心を1つにするだろう、今日だけは叶わない。
何故だかわかるだろ、和真くん?
深い闇の淵にうずくまる和真に語り掛ける優しい声。
父の言葉のように熱く、母の言葉のように優しいその声に彼の瞳は輝きを取り戻す。
暗い世界を観て彼は呆れた顔をした。
「またここか…」
虐められて何度も現実逃避した時に辿り着く場所、黒一色に染められたこの世界に恐怖を抱き現実と再び向かい合うを何度も繰り返していた。
この空間には誰も彼を責めたりしない、誰も彼と関係を持とうとしない。
安全で注意もいらず自分自身で有り続けられる現段階で唯一の場所でもある。
だが、彼は余り長くそこに留まろうとしない。
それがいけないこと、自分にとって害になることだと顔や言葉にしないが心の中でわかっていた。
良い夢だけど嫌な夢、嫌な夢だけど良い夢。
しかし 、今回はいつもと違うぞ。
目覚めさせられた、自分以外の誰かがここにいる。
この真っ暗闇の空間のどこかに他者がいる非常事態に彼は警戒するが、すぐにそれは解除され心の怯えも半減した。
なんと…コミカルな、と言った方がこの場合は正しいのか。
自分の姿さえも確認出来ない黒い世界の中にポツンと畑を護る案山子のように佇んでいる白い棒、何にでも染まるその色はこの世界ではかなり目立つ存在であった。
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