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まだ乳飲み子を抱えては、山中では暮らしては行けず、考えた末に、伽藍は吸血鬼に成って初めて人里へ降りて行った。
小さな村を選んで紛れる。
伽藍を見つけたのは、小さな乳牛牧場の若い母親。
その背に赤子をおぶっていた。
まだ幼さを残す見姿の伽藍を、村人の誰もが疑わなかったが、当たり前だが理由を知りたがった。
だから伽藍は赤子を兄弟だと偽った。山奥で暮らしていたが、両親が事故で死んでしまい、助けて欲しくて山を降りて来たのだと説明した。
微力ながら吸血鬼の魔力を持つ伽藍の言葉に、少しの違和感を感じたかも知れないが、村人達は疑う事なく受け入れた。
ありがたい事に、最初に出会った若い母親が乳母をかって出てくれ、小さな納屋を借してくれた。
一通りの生活用品や、赤子のおしめも分けて貰い、約束通り、自分の息子に乳をやった後、伽藍の赤子にも与えてくれ、おしめも変えてくれた。
「可愛い女の子だね。名前はなんて言うんだい?」
と、訊かれ、先程と同様に、伽藍だと、答えると、
「それは判ってるよ。この子の事だよ」
と、言われ、内心焦った。
訊かれても答えようがなかった。
だが、名前を答えられないなら、疑われる。
「藍樹(ランジュ)」
咄嗟に付けた名前は、自分の一文字と、拾ったのが大木の根本だから“樹”を入れた。
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