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吸血鬼は、甘く“生”を囁く。
何度も訪れた事のある森の、古い大木の高い場所の太い枝に腰掛ける。生い茂る葉の内に隠れて伽藍は思いを馳せた。
あれは抗える筈のない誘惑。
けれども、そうまでして生にしがみ付いた自分は、自業自得で“化け物”に成ったと自覚もしていた。
だから甘んじて吸血鬼の糧に為る事にも我慢していたのだ。
逃げ出せたきっかけは些細な事。
奴はそれくらいにしか思いはしなかったろう。と、この安心出来る場所で、何時もの物思いが始まる。
逃げられないと悟っていた伽藍は、毎朝、眠る前に、窓の外に来る小鳥と戯れるのを楽しみにしていた。
その密かな楽しみは、太陽が出始める頃で、吸血鬼にとって危険な時間帯、だから見付かるとは思わなかった。
それが見付かった時、奴は激怒した。
伽藍には解っていた。その時に見せた伽藍の笑顔が気に食わなかったのだ。
―――糧であるものは、感情を表に現してはならない。
..
それが主人である奴の鉄の掟。
徹底的に教え込まれた事。
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