23人が本棚に入れています
本棚に追加
『随分と遅くなった。正也、お母さんも心配しているだろうから、謝ろう。皆で、謝ろう。な。そして、正弘、お前はその後、美咲さんと話し合え。正也との再会とは…違うぞ。わかるな。』
『…親父、すまなかった。お袋から、どう暮らしているか…聞いてはいた。皆に本当に辛い思いをさせてしまった。半年前から、お袋からの連絡が無くなって…嫌な予感はしていたんだ。本当にもう…本当に…』
『俺に言うな。美咲さんに言え。ほら、もう着くぞ。』
角を曲がると、軒先に立つ嫁の背中が見えた。
ちかちかと点滅する電灯の光に照らされている背中も怒っているかのように見える。
『おい、後ろにいろ。な。』
俺は、そう正弘に小さく言い、嫁の名を呼んだ。
嫁は、振り向き…そして、正弘の姿を認め…地べたに突っ伏した。
突っ伏したまま、顔を真っ赤にして、叫んだ。
『…あんたぁ、なにやってたのさぁ。あんた…どうして…なんで』
正弘も膝をつき、
『美咲…美咲…』
と、声にならない声を出していた。
俺と正也は手を繋いだまま、ただ、二人を見ていた。
正弘が美咲の手を取ったところで、俺は正也の背中をそっと押した。
正也は、小走りに両親の元に駆け寄り泣きながら口を動かしていた。
『正也が…正也が喋ってる!おじいちゃん、正也が…あぁ正也…』
俺はわかっているよと小さく右手を上げて、スボンに入れた手紙をポッケの上からぽんぽんと叩き、玄関を開けた。
部屋へ入り、仏壇前の定位置に座ると遺影の初江と目が…合った。
…奇跡なのだろうか。
いや、そう見えるだけ…なのだろうか…。
遺影に、心の底から笑った顔の初江がいた。
… 終 …
最初のコメントを投稿しよう!