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翌朝、廊下の端にある小さな小窓から海を眺めて見るが、まだあの赤潮は留まったままだ。
初夏の海は眩しく輝き、目を焼く。
海に出る人間は目を悪くする者が多いのは、反射のせいもあるんじゃないだろうか。
年数を重ねた漁師に、眼球が赤く光ってみえるのが多いのも、そのせいじゃないだろうか。
『おじいちゃん、何をそんなとこさ突っ立てんの!さっさと朝ごはん食べて!私がパートに行く時間わかってて…。早く食べてくれないと困るの。ほら早く。』
よく話す女だ。
だから、正也が喋らなくなったんじゃないのか。
私も…喋らなくなった。
食卓にいた正也は、私が来たのに気付いて、背を向け自分の部屋へと消えた。
こんなバラバラなのに、一つ屋根の下で暮らす意味なんてあるのだろうか…。
美咲の作る味の濃い、決して旨いとは感じない料理をただ、義務的に箸で口へと運ぶ。
初江の料理が食べたかった。
あれは、料理の上手い女だった。
一度くらい褒めてやれば良かった。
今夜は寝る前に、その事を話そう。
あの定位置で。
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