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今日が、パートにいく日だとは思っていなかった。
ならば、今日は一日家に居ても構わないだろう。
わざわざ港で仕掛けを作らずにすむ。
今の時期は、朝まづめからイサキを狙い、昼からスルメイカを日が落ちるまで狙う。
今はイサキに良い値がつくから、明日は沖へと船を出そう。
今日は、家で仕掛け作りに精を出すとするか。
年々、目が薄くなるばかりで作業にも時間がかかるようになったからな。
玄関先に道具箱を取りに行くと、正也がランドセルを重そうに背負っていた。
『学校行く時間さね?勉強もうちっと頑張ってくるんだぞ。』
正也は、こちらも見ずに玄関を乱暴に閉めた。
虚しさだけが口の中に残った。
喋れない子供に話しかけるのは、負担になるだけなのか…。
海には多少詳しくもなったが、子供の事、況してや心の奥底の事までは、さっぱりわからん。
重たい道具箱をよっこらしょと声に出して、部屋へと運ぶ。
二階から、駆け降りる音が聞こえたので慌て襖を閉めた。
これじゃ…家族だなんて言えやしない。
心の通わない他人との共同生活…だ。
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