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「ふ~……何とか濡れ鼠にはならずにすんだね~」
「そだねー……暫く止みそうにない、かな?」
軒先に張られていた日差し避けの下から、萩花は空を仰ぎ見る。
最早朱一色の晴れ渡った空しか見えないのに、日差し避けを叩く雨音は普段のそれとちっとも変わらない。
「まあのんびり行こ~」とハンカチを取り出して肌や髪を拭き始めた友に倣い、萩花もカバンからタオルを出そうとした。
「あっ」
――筆箱が開いていたのか、タオルに紛れシャーペンが一本飛び出してしまった。
カラカラと転がって行くそれは、入口を通って店の中まで入り込んでしまう。
「わっと……すいませーん」
小声でそう言いながら、萩花は屈みがちに店へと足を踏み入れた。
シャーペンは思ったより景気よく転がって行ったようで、店の中ほどまで入り込んでしまっていた。
萩花はいそいそとシャーペンを取ることに成功したが、
「おやぁお嬢さん、いらっしゃい」
降りかかってきたその声音と空気に、一瞬身動きすることが出来なかった。
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