狐の嫁入り

3/7
前へ
/7ページ
次へ
「ふ~……何とか濡れ鼠にはならずにすんだね~」 「そだねー……暫く止みそうにない、かな?」 軒先に張られていた日差し避けの下から、萩花は空を仰ぎ見る。 最早朱一色の晴れ渡った空しか見えないのに、日差し避けを叩く雨音は普段のそれとちっとも変わらない。 「まあのんびり行こ~」とハンカチを取り出して肌や髪を拭き始めた友に倣い、萩花もカバンからタオルを出そうとした。 「あっ」 ――筆箱が開いていたのか、タオルに紛れシャーペンが一本飛び出してしまった。 カラカラと転がって行くそれは、入口を通って店の中まで入り込んでしまう。 「わっと……すいませーん」 小声でそう言いながら、萩花は屈みがちに店へと足を踏み入れた。 シャーペンは思ったより景気よく転がって行ったようで、店の中ほどまで入り込んでしまっていた。 萩花はいそいそとシャーペンを取ることに成功したが、 「おやぁお嬢さん、いらっしゃい」 降りかかってきたその声音と空気に、一瞬身動きすることが出来なかった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加