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「――もし良かったらぁ、これを遣ってやってください」
スッと差し出された番傘に、萩花はその腕先へと目を走らせた。
「良いんですか?」
「あ~可愛い~」
戻ってきた友人にも抱えていた紫の番傘を差し出しながら、店主は萩花に笑顔を向ける。
「寧ろこちらがお願いしたほうが良い位、古びたもの達ですがねぇ」
「まだまだ遣えるはずですから」と付け加え、
男はいつの間にか差し出す形になっていた萩花の両手へと紅い番傘を載せた。
「……今度お返しに」
「いえいえぇ! 良かったら貰ってやってください」
「そのほうが、こいつも嬉しいはずです」
――番傘に目を奪われていた萩花は、その店主の呟きを耳にすることはなく、
その細められた目の奥にある“何か”に気付くことも、
勿論、なかった。
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