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二人は恵種を使って仕事をする、しがない探偵。どれだけ有能な恵種を使えても、国関係の仕事以外で表立って動けはしない。だからこそ彼らの仕事は大概が、探偵や暴力団関係、海外で言えばマフィアなど。彼ら二人も当然の如く貧乏で、大きな仕事は全て裏家業。
何も盗まれそうな物がないのに、三つの鍵を閉めて二人が部屋を出て行った。
向かう先は、昨夜事件のあったコンビニ。実に三年ぶりに世間を騒がせているガラス兄弟。彼らもまた、恵種であるのは間違いなかった。
恵種とは、一般的に超能力と呼ばれる能力を差す。それともう一つ、恵種という言葉には意味がある。人類の上の存在、『恵まれた種』という意味が。
「あの、さっきの話ですけど、変ですよね」
真上にまで昇ってきた太陽。夏らしい高い空を見上げながら、男の後ろを女の子が歩いている。眩しそうに目を細め、お河童が風に揺れる。何とも愛らしい。
「君が、ですか?」
「……叫びますよ、変なことされたって」
「……今の彼らは偽者ですよ」
並んで歩くと、ほぼ百パーセント職質を受ける二人。常に背中を丸めて歩く、顔色の悪い手袋男と、イケナイ肉体を使った水商売をしていそうなピンクのセーラー服を着ている女の子。
まぁ、離れて歩くのは当然だろう。その無言の掟、暗黙の領域を無視して女の子が、歩道のアスファルトの小さな溝を目線でなぞり歩く男の視界の中に飛び込んできた。スカートをお尻と脹脛の間に一瞬で挟んで屈み、見上げる。
「ですよね、やっぱり! ガラス兄弟ってそんな小悪党じゃないですよね! あれだけのことやってのけるんだから、私たちの知らないところで悪と対峙してるんですよね!」
「……彼らに限ってそれはあり――」
「さっきからまるでガラス兄弟のこと、知ってるようにいいますよね?」
確かに男の口ぶりは、ガラス兄弟を知っているように感じる。彼らと呼ぶのがそれを強くしている。
「まさか知ってるんですか!」
立ち上がり女の子が男を掴んだ。身長差はかなりある。故に、ただ立ちあがって男を掴んだだけなのに、女の子の顔は男の下腹部近くに来ていた。
「あの、そんな事よりも離れて――」
「そんなことどうでもいいです! 知ってるん――」
「すいません、よろしいですか? 今日みたいな平日の正午に、一体何をなさっているんですか? 彼女、どう見ても学生ですよね」
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