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  人に優しく、地球に優しい製品。 今や、売れる商品の必須条件にエコロジカルな要素は当たり前。   そして、会社の看板でもある営業マンは、自社製品を使いこなして、そのセールスポイントを目一杯、アピールしてみせねばならない。   左様。その為には、自らが自社製品を我が子同然に手塩にかけて育てるべし。 さすれば、たかが車といえど、人馬一体のパートナーの如く良き友と成るであろう。       ……要するに、“営業車とはモニターの確かなサンプルそのものであるから、責任もって大切に育てろ”と、無言の社命が下されというわけだ。     んでその。これが、会長の趣味で、一台ごとにそれぞれ名前がつけられていて。   よりによって、僕にあてがわれた其奴は、“ジューン・ブライト号”というのである。   僕は独身である。今のところ、恋人と呼べる相手はいないが、とくに寂しいとは思っていない。 断じて述べるが、“車が恋人”などというカー・マニアでも、ない。 車は車、移動の為の単なる足、というごくノーマルな認識である。   それなのに、担当車両の名称がコレって……。     「なにが悲しゅうて、車を“花嫁”と呼ばねばならんのだ……」   げんなりとした僕の呟きを捉え、ナビゲーション・スピーカーから、実にコンピューター・ヴォイスにはあるまじき穏やかな、優しいテノール寄りのリターンが為された。   「申し訳ありません。ワタクシ、6号車なものですから」   「“ブライトさん”のせいじゃないよ。会長のセンスの問題なんだから」   そう。本来、性別をもたない機械仕掛けの乗り物に女性的名称をつけておきながら、肝心の音声ベースは男…という頓珍漢な設計が為された全ての元凶は、“会長の趣味”以外のナニモノでも、ないのだ。   「有り難う御座います。そう言って頂けると、ワタクシも助かります。こればかりは、自分ではどうにも出来ませんので……」   「まあ、アレだ。子は親を選べないものな」   「有り体に言えば、そういうことですね」       ……もう、お分かりであろう。   我が社の商品は、“喋る車”なのだ。  
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