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  会長が車の開発に着手したその発端は、かつて、少年期の会長が遭遇したドラマに登場する“自我を持ち会話する車”がモデルとされている。   そこに、昨今のエコロジー世情等々が加味され、ブライトさんを含む“性格所有車両”が誕生した…と、いうわけだ。   因みに。ブライトさん達の正式名称は【育成人工知能搭載 H2O核発電式対話型個人仕様自律機能性電気自動車】という。   いわゆる電気自動車なのだが、他社と一線をかくすのは、化石燃料からの脱却に成功した、新世代型エンジンを搭載する、という点である。   高い会話能力は、ブライトさん達のセールス・ポイントには違いないが、こうした対話型人工知能搭載車両は、他社もそれぞれ開発に成功している。   技術的な面で、我が社と他社との差別化を為すのは、ズバリ、心臓たるエンジンなのだ。   原子力エンジンの超小型化に成功した、というその程度のことでは、ない。   なにしろ、核分裂の基本素材が“水”なのである。 従来の原子力発電の最大の問題だった有害核廃棄物からの脱却を実現した、世界初・唯一無二の超画期的クリーン・エンジンの持ち主、それが、ブライトさん達なのだ。       なににせよ……。僕は“ブライトさん”を営業パートナーとして育てねばならぬ、これだけは明白なわけで。   「あの~…ブライトさん」   「はい、なんでしょう?」   「その……お願いがあるんだけども」   「はい。ワタクシに出来ることでしたら、なんなりと仰有って下さい」   嗚呼。なんと、品格確かな執事のような生真面目な物言い。 囁くような、その甘く優しい声音は、紳士萌えハイティーン瞬殺間違い無しだ。   「音声、変えて貰えないかな~…と」   「……お気に召しませんでしょうか」   「いや、あの、気を悪くしないでほしいんだ。初期設定のね、その素敵紳士ヴォイスが気に入らないわけじゃないんだよ。ただその、名前との違和感がその、なんというか……ね」   「……」   「……ゴメン」   生みの親から貰った名前と声にケチをつけられるのは、幾ら機械であっても、いい気はしないだろう。それくらいは、僕にも分かる。 分かるのだが、此方は“ストレートの人間の男”なのだ。 男に口説かれたいという気持ちは、まるで無い。  
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