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--西暦2004年5月7日AM5:40
--ボスニア某所市街地
朝だ。薄明が差し込む。誰の目にも映る橙色の目映い光。小鳥達がさえずりあい、人間を含めた動物達が起き上がるそんな一日の始まり。自然界においては天文法則に従った何の変哲もない事象である。
だが違う。違うのだ。この場所…このボスニアのとある街では単なる夜明けとは分けが違った。
「はあ…はあ…」
爆撃によって無惨にも瓦礫の山と化した"死の街"。見渡す限り土埃の灰色で出来ている。
無数の大小様々なコンクリートの破片が高層マンションから崩れ落ちたのか、傍らの地べたに横たわっている。
今でも黒煙を上げている場所もある。まるで社会の教科書に載っている第二次大戦の写真を視界に投影しているようだった。
いつからこんな風景を見ていたのだったろうか。あぁ、そうだった。
─そう、一昨日の夜からずっとだ。
硝煙の臭いだろうか。何らかの化学物質焼け焦げたが臭いが微かにする。
─そう、一昨日の夜からずっとだ。
銃声が聴こえる。人を殺めんとする乾いた銃声が壊れたラジオテープのように絶え間なく響き渡っている。
─そう、一昨日の夜からずっとだ。
これじゃ朝なんて関係なく思えてしまう。地球の自転、電磁波と赤方偏移…。この大自然の物理法則が俺の脳内では単なる照明の有無に変換されてしまっているのだ。
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