コスモポリティスモ・センティメトロポリタノ

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●街灯家・マサキ氏に就いて Trachelospermum asiaticum. そしてMasと綴り、あとにakiと続ける。  彼の名は、天の岩戸で天宇受賣命が身につけた「眞拆の葛」に由来する。和名テイカカズラ。螺旋状の白い花弁をつける可憐な花の名、だが毒草である。             真拆は軽度の不眠症と偏頭痛を患っており、その長身痩躯を持て余して猫背に歩く青年である。通学鞄には常に、横罫線の入ったMoleskineの手帳と、Rainer Maria Rilkeの『形象詩集』、そして鎮痛剤の小瓶を入れる夕暮れの街灯のような人物だ。そう、夕暮れの街灯――加えて、霧雨のような髪と――秋風のような声と――新月のような瞳を、所有する人物だった。そんな彼にあっては、「真拆」などよりも、もっと枯葉色の名前が相応しいようにも思われたが、帽子や靴のように、似合わないからといって仕立て直しの利く代物ではない。  真拆氏――それは夕暮れの街灯のような人物。そんな彼が冷たい情熱を燃やすものに時計がある。  腕巻きの安い水晶時計に始まり、機械時計、電気時計は勿論、日時計、月時計、星時計、砂時計、花時計、水時計、火時計、果てはAstrolabeにまでその嗜好は及び、とにかく『時を計るもの』に惹かれるらしい。その関連の書物は彼の私室に山積で、工具類なども一通り揃えていた。機械時計の規則正しい音が好きなのだった。凝と耳をすましていると、歯車が計る一秒々々の中に自分自身の意識が埋没していくように思われたし、時計と関わることは氏にとっては何か特別な、哲学的要素をも含む事柄であるようだったから。 Tick-Tack.Tick.……
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