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記述を続けよう。
真拆氏の年齢に就いてはどうも判然としない。M大学の薬学部に籍を置いているのは確かなようだが、或る年の晩夏に出逢う真拆は27歳ほどの精悍な顔立ちの青年だったし、ところが、その同年の初冬に出逢う真拆は16歳くらいの未だ仇気無さをその顔に残す少年なのだから。いや、そればかりではない。たとえ同日同時刻のことであっても、「街の灯」や「夕日」の当たり方によって3歳ほど年齢が変わって見えることもある。
昼と夜とではまるで別人だと証言する者は一人や二人ではないし、学生証には21歳と明記されているけれど、氏を前にしてはそれも定かではないように思えてならなかった。つまり、この「存在における輪郭の曖昧さ」「存在の不連続性」こそ、M大学の学生らをして「夕暮れの街灯のような人物」と言わしめる主な要因である。
全く以て彼は夕暮れの街灯家なのだった。
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