Case2 近藤靖彦

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アロハシャツの胸ポケットから丁寧に四つ折に折られたA4サイズの紙の契約書を取り出し左手に持ったまま、彼は靖彦に見せ付ける 「此処を見ろクソガキ。お前の両親と祖父様の名前が記入されて無いか?」 右下の隅に箇条書きで祖父の近藤信彦と両親の名前が三段に別れて記され、印鑑まで押されていたのだ 「うっ…嘘だ」 「良くみろ!!双方、合意の元で行った契約だ」 右下のネーム欄を何度も右の人差し指で叩き強調する黒野・バノーティス だが、彼のこの行動が靖彦を『混乱』、『絶望』へと導いてしまう 「……」 近藤靖彦は母親の近藤三咲が記入した事に驚きを隠せなかった 「よこせッ!!」 「お~ッとぉ、悪いがそうは行かねぇなクソガキ」 右手で契約書を素早く奪い取ろうとしたが軽々とかわされ失敗に終わる 「先程の質問だったが」 契約書を四つ折にしながら近藤靖彦へ呟く黒野 「契約書を見て、理解できたと思うが。お前さんの質問には『YES』と答えさせて貰う…」 「……くっ」 右の拳を力強く握り閉める近藤靖彦 「敢えて付け加えるとしたなら、【ジェネシス】、そして【Eden】に対する防衛策を取り付けた」 「何の事だ?」 「ふん、知らない方が良い事もあるって事だよ。クソガキ、わかったか?」 「……」 「オイオイ、さっきまでの威勢はどうしたァ? お前の弟は無事だ、別室で父親と母親が面倒をみてるよ…」 「そうか、なあ…」 「まだ、あんのか?」 「オレはこの先、どうすれば良いんだ?」 「……」 靖彦は両手、両足をそれぞれ見ながら悲しげな瞳で黒野に問い掛ける (近藤家の人間とは云え、高校生だから、当然といえば当然か?) 己の行いに若干の罪悪感を黒野はようやく持ち有る結論に達した。
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